「悲しみ・おびえ‥」にふれる

人間が、「悲しみ・おびえ」等の感情にふれる、そういった感情を感じる事はとてもしんどい事です。一方で、カウンセリングという仕事をし始めてから、人がこの種の感情にふれる事は、とても大事だな~と感じます。

 

もちろん、例外もあります。例えば、それらを感じたら日常生活・実人生を生きていくのに大きな支障がでてくる。あるいは、極端な言い方をすれば、「それを感じたら心がもたない・崩壊する」という場合は、そういった感情を感じないように蓋をする、一時的にでも麻痺させて、どうにか日々をやりくりしていく事が最優先になります。

 

ですが、悲しみなどの感情にふれても、そこまでの事態にならないのであれば、そういった感情にふれることは、心の健康にとても寄与する可能性があります。

 

というのも、例えば、

出来事A、あるいはA的なものの積み重ねによって「悲しみ・おびえ」などの感情が生じていたとします。これを、出来事から直接生じた「しんどさ」として、「一次的しんどさ」とよぶとします。この時、カウンセリングを積み重ねていく中で、しんどいながらも、この一次的しんどさにふれ、その感情を理解したり感じたり、味わったりしていけると、それらの感情は和らぎ、消化されていく可能性が大きくあります。

 

一方、ほぼ多くの場合、本人も「気づかないうちに」、この一次的しんどさを感じないようにする心の動きが、多くの人に生じます。私にも生じます。これは、ある意味では当然のことです。しんどさは誰にとっても、感じたくないものですから。

 

例えば、誰かへのいつまでも続く強い怒りの裏側には「深い悲しみ」が一次的しんどさとして、隠れている可能性があります。あるいは、何かあるとすぐに「涙がでて悲しくなってしまう」場合、一次的しんどさとしての「強い怒り」が、潜んでいる可能性があります。

 

つまり、一次的しんどさとしての悲しみや怒りが、別の感情で蓋をされてしまっているわけです。これは、ご本人は一時的には楽な感じがすると思います。ただ、一方で問題が生じてくる可能性があります。

 

例えば、

①:なにかあったら、すぐに泣いてしまったり、怒ってしまったりする。それが頻繁に生じたり、長期間続いたりする。

②:①から慢性的な情緒不安定になったり、職場やプライベートでの対人関係が上手くいかなくなったりする。

 

詳細な考察は割愛しますが、一次的しんどさに蓋をし過ぎると、別の問題が生じうるということです。これは、「二次的しんどさ」とよぶことができます。そして、二次的しんどさは、それが生じた由来や要因が、本人にはわからなかったりするので、問題が長引いたり、複雑になっていく可能性があります。

 

私のカウンセリングでは、クライエントさんのお話を伺っていて、“あ~これは二次的しんどさでているな~”と理解した場合、少しずつ慎重に、一次的しんどさの方に話しの中心を移していきます。もちろん、ご本人は、無意識的にしろ、一次的しんどさにふれるのが「しんどい」から蓋をしたわけです。そこには、蓋をせざるをえない必然性があるわけですから、そこは慎重にすすめます。

 

そのようにして、カウンセリングの中で、徐々にクライエントさんが二次的しんどさから一次的しんどさの方に注意を向けていったり、その二つが生じていた事に気づいたり‥などしていくと、問題が解決の方向に動きだしていきます。

 

様々な事情が複雑に絡み合い、ご自分が「つらい」という感情さえ感じられなかったクライエントさんが、カウンセリングで様々なやりとりを積み重ねていき、あるタイミングで私が「つらいですよね」と声をかけると「はい‥つらいですね‥」とはじめて涙をみせながら、仰られることがしばしばあります。

 

そこではじめてクライエントさんは、自分がつらかったんだつらさを抱えているんだという一次的しんどさを実感・理解できるわけです。こういう瞬間は私もしばしば感情が揺さぶられます。クライエントさんが長年封印し、閉じ込めざるをえなかった感情にふれるわけですから、当たり前ですよね。いわゆる「癒し」といった現象が生じているのかもしれません。

 

もちろん、一次的しんどさを実感できたから、即解決、とはいきませんが、少なくとも、一次的しんどさにふれられず、二次的しんどさに振り回されてしんどくなっている状態よりは、問題解決がスムーズになることは、間違いありません。

 

今回は、悲しみ・おびえといった感情にふれていく事の意味や大切さを、一次的しんどさ二次的しんどさというキーワードから考えてみました。もちろん、上記にも記したように、人によっては「怒り」が一次的しんどさになる場合があるわけです。

 

何かの参考になれば幸いです。