クライエントさんの歴史を聴くこと

今回は私がおこなっている、すなわち当カウンセリングオフィスで、大事にしていることの一つを、書いてみたいと思います。

 

それは、「クライエントさんが歩んでこられた『歴史』を聴いていくこと」、です。

 

例えば、すごく精神的に調子が悪かったり、鬱っぽかったりする方が来られたとします。そして、その後のやりとりで、私の中に、“どうも、「怒り」という感情を無理に抑え込んできた可能性が高い”、といった予測が生じてきたとします。

 

その時に、例えその予測がかなりの確率で高いと考えても、すぐにそれを指摘して、「それらを抑えない方が良い‥」という方向に舵を切ることはあまりありません。

 

というのも、多くの場合、その方がそういった感情を抑え込ま「ざるをえなかった要因や、その積み重ねとしての「歴史」が背景にあるからです。例えば、強い怒りを子供の頃から親に対して日々感じていたら、場合によっては子供は怒りを「封印」、あるいは「麻痺」させるしかなくなるかもしれません。

 

なぜなら、「それらの感情を日々親に対して感じつつどうする事もできない‥」という毎日は、子どもにとって苛烈すぎるからです。そういった全体状況を、子供なりになんとか「生きのびる」ために、麻痺させるしかなくなるわけです。子供なりの「生存戦略」なのです。そうせざるをえない必然性」と言ってもいいでしょう。

 

そして、その「生存戦略」が、大人になった今も、無意識的に続いている、ということは十分に、しばしばあることなのです。

 

ですから、私は、クライエントさんが、「そうせざるをえなかった歴史」をまずは傾聴し、理解し‥といったところからカウンセリングをすすめていきます。

 

もちろん、そうはいっても、クライエントさんにとって「ここは触れられたくない」という場合は無理に聴く事はしません。また、こちらの判断として、「今、この話題に触れない方がよい」と判断した場合も、そこに触れることはしません。つまり、話すことに抵抗を感じるクライエントさんに、無理強いをするようなことはしません。

 

そのような場合は、私なりに仮説を立てたり、想像を膨らませながら、話しを聴いていきます。

 

いずれにせよ、そういった歴史を少しずつ丁寧に伺っていくと、その方が「そうせざるをえなかった歴史」が自ずと浮かび上がってきて、それをクライエントさんと共有していく流れに自然になります。こちらはその過程で、そうせざるえなかった歴史に対して、理解や共感・労い‥といった関与をしていきます。というより、そういった関与をしたくなる気持ちに自然になっていきます。

 

そのようなやりとりをしていくと、徐々にクライエントさんは、自分が蓋をしていた感情にふれ始め、回復軌道にのり始めることがよくあります。

 

仮に、カウンセリングの初期段階で、クライエントさんが色々な感情に蓋をしている可能性を感じても、それは、「そうせざるをえない歴史・必然性」があるからそうしているわけで、そこへの丁寧な理解なしに、「蓋をしないほうがいいよ」とアドバイスをしても、ほとんど有効ではないだろう、と私は考えます。

 

そもそも、それを言われてすぐに、“あ~そうか~”と納得して、それが実践できる程度の悩みに、人はわざわざお金を払ってカウンセリングにはこないでしょう。それが、簡単にはいかない「何か」を抱えているから、カウンセリングに来られるのだと思います。 

 

そういうわけで、私は、クライエントさんの「そうせざるをえなかった歴史・今のしんどさを抱えざるをえなかった歴史」を大事にしつつ、カウンセリングをすすめていきます。

 

当カウンセリングオフィスでおこなっているカウンセリングの参考になれば幸いです。