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心を映す写真-自己理解・自己表現のために-

公開日:2021/05/03

 

 

目次 

  1. 身近になった写真を撮ること
  2. 写真と臨床心理学に関する研究
  3. 写真から自己理解を深める  
  4. カウンセリングで写真を語ること
  5. 写真を自己表現の助けに
  6. 参考文献 

 

文責 福田 優菜

 

  

1.身近になった写真を撮ること

 

この十数年で、写真を撮ることがとても身近なものになってきました。以前と比べてデジタルカメラの値段は格段に下がり誰もが手に入れやすくなっています。それに加えて、スマートフォンの普及によって、今や性能の良いカメラを一人一台所有しているような状況です。

 

また数年前には、Instagramという写真の共有に特化したSNSが流行し、2017年にはインスタ映えという言葉が流行語大賞になりました。こういった社会の動きを見ても、写真がとても身近になっていることがうかがえます。

 

私自身はカウンセラーの自己紹介ページにも書いていますが、趣味を聞かれた時に「写真を撮ること」と答えています。というと、立派なカメラを持っているのでは?とか、どこに行ってどんな写真を撮るの?などと聞かれるのですが、実際には手持ちのスマートフォンを使ってふと気になった被写体に出会った時に思わず撮る程度です。

 

基本的にスマートフォンは毎日持ち歩いているので、いつでもどこでも写真を撮ることができるようになりました。

 

2.写真と臨床心理学に関する研究

 

なんとなく好きで始めた写真ですが、大学で臨床心理学を学ぶ中で、写真も自己表現のひとつとして位置づけられるのではと考えました。そして大学院では、臨床心理学に基づいて、より専門的に、写真と心との繋がりや、写真表現によってどのような感情を体験するのかといったことについて研究しました。

 

写真と臨床心理学に関連する過去の文献を紐解いてみると、1970年代に精神科医でユング派の心理療法家である山中康裕先生が、撮影された写真を媒介としたカウンセリングの事例を紹介しています。

 

またカウンセリングという枠組み以外でも、学校の授業やその他ワークショップの中で、自己理解のツールとして写真が使われているという報告もあります。その方法としては、「自分」というテーマで写真を撮る、「今惹かれるもの」をテーマに撮る、「好きなもの」を撮る…など様々です。

 

このように、写真と心との関連については以前から研究されていましたが、写真が以前より身近になってきたことで、気軽に取り組みやすくなっているといえるのかもしれません。

 

3.写真から自己理解を深める

 

上記のように、自己理解を深める目的で写真を使うことが行われています。色々な方法がありますが、ここではそのなかでも一般的によく用いられており、私もときどきやっている方法をご紹介します。

 

私は時折、スマートフォンを持って近所を散歩しながら写真を撮りにいきます。その瞬間に心惹かれて残したくなった物や構図の取り方に、今の自分の心が写っているように思います。例えば最近だと、満開に咲いた桜に引き寄せられ、思わず近づいて写真を撮りました。社会情勢としては明るいニュースが少なく感じる昨今ですが、そんな中でも季節が巡り新しい春がやってきていることに嬉しくなりました。そんな気持ちも写真に込められているように思います。

 

また今のスマートフォンは、撮影時にも撮影後にもフィルターをかけて色合いを調節することが可能です。私の場合、色鮮やかなフィルターをかけたくなる時もあれば、少し色あせたセピア色のフィルターを選びたくなる時もあります。その時に選ぶフィルターの雰囲気も、撮影時の心の状態を反映しているのかもしれません。

 

次に、撮影した写真を見返した時、「その時に」惹かれる写真を探してみます。改めて眺めてみて、今の気分にしっくりくる写真は?どうしてこの写真に惹かれるのか?あるいは惹かれないのか?などを考えてみるのも良いかもしれません。

 

例えば、明るい青空の写真に惹かれる時もあれば、夕方の暗くなり始めた空に惹かれる時もあるでしょう。晴れやかな気持ちのときと少し沈んでいる気持ちの時では、惹かれる写真が異なるように思います。沈んでいるときに明るい青空の写真を見ることは、“しんどい、きつい”といった感情を引き起こす可能性もあるでしょう。

 

このようなふりかえりは、その時の気持ちや自分自身の心の状態を、写真を通して理解していく契機になります。

  

4.カウンセリングで写真を語ること

 

このようにして撮影された写真は、人に語ることでさらに自己理解が深まっていきます。その被写体に惹かれた理由、撮影時の感情や感覚を改めて言葉にすることによって、今まで気づかなかった自分の感情に気づくこともあるかもしれません。身近な他者と語ることも良いですが、より安全な場としてカウンセリングの中で語ってみることも良いでしょう。 

 

私は、カウンセリングは基本的に言葉のやりとりですすめていますが、趣味の話など何気ないやりとりから、写真の話になることがあります。そしてそこから、クライエントさんの写真を見せていただき、写真を媒介したカウンセリングになることがあります。

 

それによって、言葉だけではイメージしづらかったクライエントさんの心の世界や抱えてきたしんどさが伝わってきて、より深くクライエントさんを理解できることがあります。また、クライエントさんも今まで触れていなかった感情が呼び起こされるなど、様々な気づきが生じていく中で、状態が改善していくことが生じえます。

 

カウンセラーと写真を共有しながら様々なやり取りを積み重ねていく中で、それまでは触れることが難しかった気持ちや感情を感じることができ、自己理解が深まることで、悩みやしんどさが変化しうるのでしょう。このようなカウンセリングの営みは、今後の人生をより豊かなものにしていく可能性を秘めています。 

 

5.写真を自己表現の助けに

 

2021年も新年度に入りました。この時期は特に、自己紹介をすることが多くなります。このブログを読んでくださっている方の中には、自分のことや考えを言葉にして伝えることが得意ではない方もおられるのではないでしょうか。そういった方にとっては、写真を撮ることが、自分を表現する何かを見つけるきっかけになるかもしれません。

 

いずれにせよ、まずは気軽に自分の心や気持ちに触れる一つのツールとして、写真を撮ることを生活の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。 

 

6.参考文献

  • 野村訓(2004) レンズの向こうに自分が見える 岩波ジュニア新書
  • 大橋牧子 (2009) 自分の「焦点」はどこ?フォトアートセラピー10のPHOTO WORK BABジャパン
  • 山中康裕 (1978)  少年期の心 精神療法を通してみた影  中公新書