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苦手な人とのつきあい方について(後編)-読者のリクエストへのお返事

後編です。今回は「苦手な人と関わる事で学ぶ事はあるのだから関わるように」という「②接近するアプローチ」について考えてみたいと思います。

 

「②接近するアプローチ」:②の方向の関与は、実は私自身があんまりしないので、正直ピンとこないんですね。カウンセリングでも、特に勧めたりはしません。

 

ただ、カウンセリングでは実際に下記の様なやり取りが生じてくる事があります。例えば、Aさんがカウンセリングで、「Cさんが苦手だ、嫌いだ」といった話を、何度もされていったとします。私は当然具体的な理由等を聴いていくわけですが、そういった中で、時に、AさんがCさんから特にひどい事をされていないにも拘らず、「なんかCさんは苦手だ」「Cさんを見ていると、無性に腹が立つ」といった訴えがでてくる事があります。

 

そしてそれが現実の対人トラブルに発展したり、Aさんの心身に影響を与えている場合には、「どうしてそこまで強い苦手感がでてくるのか、を一緒に考えてみましょうか」と提案する事があります。そうすると、次のような事がみえてくる事が実際にあります。 

 

例えば、Aさんが子供の頃から「怒ってはいけない」という教育を強くされてきたとします。そうすると、Aさんは自分の中にわいてくる「怒り」を過剰に抑え込んだり、場合によっては、怒りを感じないよう麻痺させてしまう事もあります。そうなると、仮にCさんが怒りを表現する人で、Aさんに怒りが向かなくても、AさんはCさんが苦手になる可能性があります。

 

何故なら、本当はAさんの中には「怒り」という感情があり、場合によってはそれを表現したい、という気持ちがあるにもかかわらず、それを「良くない事」と過剰に封印しているため、それができているCさんをみるとAさんの心がザワザワし始めるからです。

 

で、そこを、よ~くみていくと、実はCさんへの羨望があったりするんですが、多くの方はそれには気づかずに、「あの人は苦手・嫌い」といった気持ちをもつようになります。ですからカウンセリングではそういう事が見えてきた場合は、そのあたりを少しずつやり取りし、Aさんが自分の中にある怒りを感じられるようになったり、場合によっては、表現できる方向のお手伝いをしていきます。

 

これには時間がかかりますが、それをしていくと、Aさんは怒りという感情を過剰に抑え込む必要がなく、怒りを感じたり、表現もできるようになったりします。こうなると、AさんはCさんへの強い苦手感などが薄らいでくるので、実際に心が楽になりますし、人間的な成長をとげた、とも言えるでしょう。

 

上記の様な、ある人に対して、「そこまでの明確な理由がないのに」強い苦手感・無性に腹が立つ‥といった感情が生じる場合は、中身がなんであれ、上記と同様の構造が隠れている可能性が高いと思います。

 

例えば「人に頼るのはよくない。甘えるのはよくない。自分で全部やらなきゃ」といった気持ちを何らかの要因で強く持つようになった方(そうせざるをえなかった方)は、甘えている人を見ると、無性に腹が立ったりします。

 

これは要するに、本人の中に「甘えたい」という気持ちがあるのに、それに無自覚だったり、それを「良くないもの」としている為、自分の中の正直な「甘えたい」という気持ちを認めたり、他者に上手に甘えられないから生じるわけです。そこそこ上手に人に甘えられる人は、甘えている人を見てもさほど腹は立ちません。

 

あるいは、常に強く意見をはっきりいう人は、言えない人を「ウジウジしている」と嫌ったりしますが、それは実は自分の中にも、「曖昧だったり逃げ越しだったりする自分」がいるのに、それに気づいたり、そういう自分を受け入れられていないからです。

 

もし気づいて、あ~強気に振る舞っているけどなんだかんだ言って、本当は自分にも怖がりなところや弱気なところがあるんだよな~と認められていけば、そういった腹立ちはもっとマイルドなものになります。

 

ですので、私はの方向に関しては、苦手感を感じる人と「積極的に関わる必要」や「好きになる」必要はないですが、それがそこまでの明確な理由がないのに」強く、かつ「当人の心身・対人関係に影響を与えている場合」には、どうしてそこまで強いんだろうという事を上記の様な観点からやり取りをしたりします。

 

こういった作業には、多少のしんどさと時間がかかりますが、それを積み重ねていく事によって、誰かに対して生じる強い「苦手感」等が、少しでもやわらげは、本人にとっても、あるいは周囲にとっても望ましい事ですから、大事な意味があるでしょう。

 

なお、ユング心理学(カウンセリングで使う一つの理論です)では、こういった、本当は自分の心の中に潜んでいるが、何らかの事情によって本人が意識したり、認めたり受け入れられていない「感情、願望、欲求など」を「影・シャドー」といったりします。

 

そして、この部分に少しずつ目を向けていき、自分の隠れた気持ち、欲求が明らかになってそれらを認めたり、可能な範囲でそれらを実現させていけば、本人の生きづらさが緩和されたり、心の成長等が生じるとされています。私もカウンセリングをしてきてそれは感じます。

 

長くなりました。ざっくり結論を申し上げれば、②に関しては、苦手な人と無理をして積極的に関わる必要も好きになる必要もないですが、明確な理由がないのにその感情が強く、負荷が生じている場合は、上記の観点から自分を振り返ると、なにか見えてくる事があるかもしれない、というのが私の意見ですかね。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。 

コメント: 2
  • #2

    西野入 篤 (火曜日, 04 7月 2017 08:45)

    北欧に旅したい様:お忙しい中、前後編それぞれにご感想をいただきありがとうございました。「生理的に受け付けない」というのが、私の上記の説明にあてはまるかどうか?‥これは、なかなか面白いというか、興味深い質問ですね。パッと浮かぶのは、すべてではないかもしれませんが、あてはまる場合もあると思います。ただし、その為には「生理的に受け付けない」で、話を終わらせるのではなく、「どうして、そうなるんだ」と自分を振り返る作業が必要にはなるでしょうが‥。

    また、仰るように、私のカウンセリングでは接近のアプローチはすすめはしませんが、最低限の範囲での関わりができなくなり、それが結果的に強いストレスを生む場合には、そこをとりあげていくかと思いますね。

  • #1

    北欧に旅したい (土曜日, 01 7月 2017 21:16)

    後編、心理学的なお話で面白かったです。
    生理的に受け付けないというのもこれに当たるんでしょうか。
    カウンセリングでは接近のアプローチは基本、勧めないということですが、やっぱり最低限の出来る範囲で関わるのが総じて余計なストレスを生まずにやり過ごせるということ、なんですかね。
    前後編に渡り、ありがとうございました^_^