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重要な決断をしない方がよいとき

今回は、精神保健に役立つマメ知識的な事を書いてみます。

 

カウンセリングをしている時に、相談者の方にしばしば伝えるのが「①調子がよくない時に重要な決断はしないようにしましょう」という事です。調子がよくないというのは、ざっくりいえば、強い情緒不安定が生じていたり、精神科的な症状が強まっていたり‥いわば人生・日常が「向かい風の時」です。また、重要な決断というのは、例えば、結婚・離婚・転職・退職・引っ越し・家を買う等高額なものの購入‥等々です。

 

重要な決断というのは、それによって人生の方向性が大きく変わりうる場合が多いですね。そう考えると、重要な決断をする時は、ある程度精神的に余裕があり、物事を落ち着いて、冷静に考えられる時の方がいいわけです。カウンセラーの感覚で言うと「安全」です。

 

調子が良くない時に何らかの重要な決断をして、調子が回復してからそれを強く後悔する‥という事はしてほしくないので、必要だと考える時は①を伝えてきました。

 

もちろん、そうはいっても「してしまった」となったら、それはそれで対処していくわけですし、否が応でも、向かい風の時に、重要な決断をしないといけない時もあります。ですが、そういった際でも①を知っていれば、信頼できる他者に相談するなど「自分一人だけで決断をしない・抱え込まない」等の工夫によって、冷静な判断ができる可能性は高くなります。

 

また、このブログで紹介してきた精神科医の中井久夫先生は「いろは歌留多」で

決断延ばせば 問題が向うから消える時もある。

とも言っています。実際、こういう時もままあるかと思います。

 

もちろん、先延ばしにしても消えない問題もあるわけですが、いずれにせよ、向かい風の時に、重要な決断は控える、ないし、するとしても慎重にする‥ということを心に留めておくことは、生きていく上で役立つ知恵だと思います。

 

お役にたてれば幸いです。

コメント: 4 (ディスカッションは終了しました。)
  • #4

    西野入 篤 (土曜日, 05 8月 2017 10:32)

    サッカー少年様:コメントありがとうございました。非常に難しくデリケートな問題ですね。

    まず最後が「どのように声をかけるか」という問いで終わっているので、ここからいきますと、正直なところ「お答えのしようがない」という事になってしまうんですよね。と言いますのは、どのように関わり、どのような言葉でやり取りをしていくかは、実際にお会いしてみないと何とも言えないからですね。ですので、具体的な問いに具体的にお答えする、というのは難しいんですよね。

    ただ、抽象的に言いますと、私でしたら関与の方向性は大きく二つあるように思います。
     一つ目は、カウンセリングの積み重ねによって、もう少し安定的に職場に通いうる状態になる‥といった見通しが立つ場合は、それが実現するための方向の関与をしてきます。二つ目は、例えば抱えている病状が非常に重たいもので、当面安定的に職場に通う事が難しい場合は、まずは日常生活が大きく崩れないような関与をしていきます。二つ目の状態の時に、一つ目の方向の関与をすると、著しい害を与えてしまう可能性があるので、そこは見極めが重要になります。
     また、サッカー少年さんから見て「お互いに不幸」「退職した方が良いのかも」といったように映るのは、私なりに理解できるところもあるのですが、はたして退職する事が、「現状」よりも、「本当に」良い方向にいくのか?といった判断は、相当慎重に色々な点を検討していきます。例えば、経済的な状況はどうか?次の仕事のあては?などなど、個別具体的に状況をお聞きしつつ考えていくかと思います。
     それから、これまで、私が受け持つ患者さんの会社の上司が来られる‥といった事があり、その場合は、現在どのような状態なのかをかなり詳しく伝えたり、上司からの質問に私なりにお答えする、といった事ができましたので、それはお互いに有益だったように思います。
     具体的なお答が難しいので、抽象的になってしまいますが、私がお答えすると、こういった感じになるかと思います。

  • #3

    サッカー少年 (金曜日, 04 8月 2017 17:00)

    とても考えさせられる内容でした。
    調子の悪い時に重要な決断をしない、ということに基本的に賛成しつつ、ご意見をお伺いできたらと思います。

    私の職場には、精神的な疲労のため休職を何度か繰り返されている方がいます。復職のたびに、「少しずつ、少しずつ」ということで業務を減らしながら(つまり、周囲がその分を背負いながら)やっておられます。結局、周囲が「この仕事を任せたらまた調子が悪くなるのでは」「それならば自分がやった方が早いし、ラク」となり、今では誰もその方に期待をしなくなってしまいました。

    ご本人も孤立してしまいお気の毒ですが、その方は「調子が悪い時には重要な決断はしない」と、退職も決断されません。

    ご本人も周囲の私たちもお互い不幸な気がします。
    このような場合、どのようなお声かけをされますか?

  • #2

    西野入 篤 (木曜日, 03 8月 2017 10:12)

    Kirin様:コメントありがとうございました。「時が解決する」、いわゆる「時間薬」というのは本当に大切ですよね。まさに「いつのまにか‥」という感じで。もちろん、悩みの種類によっては、違った対処方法を考えないといけない時もあるかとは思いますが、カウンセリングの大きな役割の一つは、「時が解決する」、その「時間」を「一緒に過ごすこと」にあるのかもしれません。

    「向かい風・嵐の時」に、一人で時間が過ぎるのを「待つ」のではなく、二人で待つ方が「しのぎやすい」あるいは、多少なりとも「楽に・意味のある待ち方」ができるといいますか‥そういう「待ち方」を模索していくといいますか‥。

    そんな連想が浮かびました。貴重なコメント、ありがとうございました。

  • #1

    kirin (木曜日, 03 8月 2017 09:45)

    ①は非常に大切な一言だと思います。定年退職を超える年齢になった今思うに、高校時代から入社間もない頃、特に人前で意見を述べるのがたいへん苦痛な時期がありました。人並みに「上がって」しまい、声が震え、意見がまとまりを欠くということを繰り返しました。自信喪失で、こんなことで一人前に生きていけるのだろうかと悩み続けたことをお思い出します。ただ、今にして思えば、いつの間にか本当にいつの間にか、心臓にひげが生えたわけでもないでしょうが、人様の前で、普通にしゃべれるようになっていました。まさに、「時が解決してくれた」のだと思います。若い時分に人生に悩みを持ち、調子のよくない時には、①のようにじっと耐えて時間をやり過ごすことが結果として正解だったように思います。そんなことを思い出した一言でした。ありがとうございます。