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メタ・スーパーヴィジョン

今回のブログ記事は、臨床心理士など、専門職向けの内容となります

 

昨年、2018年から、あしかけ1年強にわたって、福島哲夫先生(大妻女子大学教授・当カウンセリングオフィス顧問)に、メタ・スーパーヴィジョンを受けました(以下、メタ・SV、と略します)。詳しくは、今年、2019年の「心理臨床学会」で福島先生と発表をしますので、こちらのブログでは、どんな事をしたのか、アバウトにはなりますが、書いてみようと思います。

 

通常、一定のキャリアと訓練を積んだ臨床心理士が、スーパーヴァイザー(以下、ヴァイザー、と略します)として、スーパーヴィジョンをする場合、自分のヴァイザーをモデルにして、スーパーヴィジョン(以下、SV、と略します)をしていくと思います。私もそうでした。

 

ただ私は、自分のヴァイザーとして能力を、多少なりとも高めうる訓練を積みたい、と考えておりました。しかし、そういう研修や機会って、なかなか、ないですよね。あっても、自分にしっくりきそうな感じがしなかったり‥。そんな時に、福島先生から、それに合致する研究を先生がなさっており、声をかけていただいて、その研究に参加させていただく事にしました。

 

内容等を、簡単に説明しますと、私のスーパーヴァイジー(以下、ヴァイジー、と略します)さんにご協力いただいて、私がSVをしている場面を録画します。そして、その録画したものを、福島先生にみていただきつつ(当然、その前に私が一人でみて、自分なりの検討もしています)、SVの仕方に関して、コメントをもらったり、やりとりをしたり‥というものです。これを「メタ・スーパーヴィジョン(以下、メタ・SV、と略します)」といいます。

 

メタ・SVの回数は計10回、録画したSVセッション数は計20回、これを約1年強かけて行いました。

 

これにより、私のヴァイザーとしての能力がどの程度向上したのかはわかりません。ただ、間違いなくやってよかったと思いますし、多少なりとも能力の向上には繋がったと考えています。

 

正直、紙媒体だと、「あ、ここ失敗したな」という部分は削ろうと思えば削れますよね(笑)。ですが、動画なので、削れないんです。上手くいった介入も、いまいちだった介入も、ごまかせない。ただ、その分、自分のSVでの、在り様・介入が「もろ」に露わになるので、自分の傾向や特徴が、相当自覚できます。

 

特に、非言語の部分ですね。「喋り方、声のトーン、スピード、大きさ、間のとり方‥等々」。これら非言語の部分を動画を見ながら振り返りつつ、先生にコメントをもらって、修正すべきところを修正していく、という学習体験の、1年以上にわたる積み重ねは、非常に貴重でした。非言語の部分を意識化するって、自分の内省だけでは限界があるんですよね。動画を撮ると、「もろ」にでますので、気づきやすくなります。

 

また、気づかないうちにおこなっていった介入を、再度「この介入は『このヴァイジーさん』にとって意味があるのか」を捉え直す事にもなりました。SVでの介入って、自分が受けてきたSVの影響を受けていて、それが、ある意味「自然」あるいは「無意識・地」になっているので、なかなか気づかないんですよね。

 

ですが、動画をふり返る事によって、「地」になっていたものが「図」になり(つまり、意識化され)、そこから、「この介入は私のヴァイザーがよくしていた介入で、私には役立ったけど、このヴァイジーさんには役立っているのか」と自覚的に考え直す‥など等、SVでの介入に、より自覚的になれたと思います。

 

また、メタ・SVの中で、福島先生からの「このヴァイジーさんのパーソナリティーは、こんな感じでは。そして、臨床家としての当面の課題はこのあたりでは‥だとすると、こんなふうに介入してみては‥」というコメントは非常に役立ちました。

 

臨床経験の浅いヴァイジーさんは、「全体的な底上げ」が重要になりますが、それでも、各ヴァイジーさん「固有の課題や傾向・パーソナリティー」があり、それを踏まえたうえでSVをおこなう、という事は、SVを効果的にすすめるうえで非常に大事なんだな‥と考えてみれば当たり前の事ですが感じました。このあたりは、実際の臨床とも近いですよね。

 

当面の見立てと方針をもって、関与していく、という。

 

メタ・SVも後半になってくると、自分一人で動画をじっくり見直すだけでも、かなり色々な事がみえてきます。その事を先生にお伝えしたところ「セルフ・スーパーヴィジョンになりますよね」と言われて、“なるほど~”と納得しました。先生も適宜、なさっているようです。まさに、セルフ・スーパーヴィジョンになるんですよね。

 

私は自分では気づかなかったですが、1回目と、最後の20回目では、SVの、特に「非言語部分の在り様」が、随分変わっていたとの事でした。

 

あとは、ヴァイジーさんや、そのヴァイジーさんにセラピーを受けるクライエントさんに還元されていれば‥と願うばかりです。

 

個人的には、ヴァイジーさん固有の課題やパーソナリティを踏まえた介入を意識したあたりから、ヴァイジーさんのSVでの様子が、ポジティブに変わってきたように感じました。端的に言って、力がついてきているな‥という感じが、こちらに生じ始めました。

 

様々な条件や、デリケートな部分もありますが、動画を撮って自分でじっくり振り返る、そしてそれを、メタ・スーパーヴァイザーにみてもらいつつ、コメントもらったり、やりとりをしたり‥といった、一定期間の積み重ねは、自分の臨床のやり方にも変化をもたらしたと思います。

 

スーパーヴァイザーの能力を高めうる一つの方法として、メタ・SVは有効だろうと思います。

 

より、詳細なものは学会発表でおこないますので、ご関心のある方は、もうしばらくお待ちください。