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大学生とのカウンセリングで考えてきた事(2)

大学生とのカウンセリングで考えてきた事(1)を書いてから、約2ヶ月ほどあいてしまいましたが、久しぶりに書いてみようと思います。前回同様、私が担当していた学生さんの中の一定数以上の学生さんが抱えておられた、しんどさなどに関するものです。

 

それは端的に言えば、大学全体の中に広まっている

A:学生時代に、将来~になりたい・~がやりたい・~がしたい(仕事に結びつくもの)」といったものを見つけた方がよいといった、雰囲気から生じるしんどさについてです。私見ですが、この雰囲気・風潮はかなり強いように思います。

 

例えば、学生さんの中には、大学に入学する前から、「教師になりたい・看護師になりたい」など、将来の職業の選択肢が明確な方がおられます。あるいは、在学中に「社会福祉士になりたい・臨床心理士になりたい」などが明確になり、それに向けて努力をしていく学生さんがおられます。こういった学生さんは、基本的にAが負荷になる事はありません。

 

一方で、Aが明確に見いだせない学生さんが一定数以上いる事も事実です。そして、そういった学生さんの中には、Aが半ば圧力・負荷となっていき、そういう自分に劣等感などを抱いていく方が少なからずおられました。

 

また、何割かの学生さんは、「~になりたい」と思って入学したけど、大学に入って勉強していくうちに「これは違う」と思って、その進路選択を切ったわけですが、今度はそれに変わるものがみつからず、そこから“あ~自分は何やっているんだろう‥駄目だな‥”といった悩みを強めておられました。

 

私からすれば、大学に入ってそういったことがみえてくる事は、自己理解が深まったから生じる場合もあるわけで、そういう場合は、ある種の成長だと思うのですが、当人としてはそれは「駄目な事」と体験されているようでした。

 

つまり、大学全体を覆う見えないA的な風潮・雰囲気は、それが明確ではない学生さんにとっては、ある種の圧迫になりえるし、そこから、“そういったことを見つけなきゃ”といった、なかば強迫的な焦りを生んだり、“自分は駄目なんだ‥”的な悩みを誘発していくものになりえるわけです。

 

で、私はそういった学生さんに下記の様な事を折に触れて伝えていきました。

 

「それって、大学の中で色々な人(学生や教職員)から言われたり、それが良いことだ‥的風潮にいつのまにか影響されていない?」

 

「もちろん、Aが明確な学生さんはそれはそれでいいけど、それが明確じゃない学生さんもたくさんいるよ‥というか、それって普通だよね~だってさ~、21,22歳前後で、将来~になりたい・~がしたい‥というものが明確じゃない、わからないって当然といえば当然でしょ‥しかも、今は転職も普通にある時代なわけで‥」

 

「そもそも“~がやりたい”といった強いものとか、高尚な理由がなくても別にいいと思うんだよね‥例えば、“自分は民間企業よりは公務員向けの性格なような気がするし‥公務員は経済的に安定もしているし‥だから公務員を目指してみようかな‥”といった感じで就職の方向性を決めていったっていいし、そういう人だって実際にはたくさんいるよ」

 

「就職の方向性に迷う時は、当面大学をでてからまずは就く仕事、と多少気楽に捉えて、明らかに自分に向かない仕事は外して、あとは経済的安定とか福利厚生、勤務場所‥とかそういうので選んでいっていいんじゃない‥で、ひとまず働いてみて、そこから先の事はその時に考えていけばいいんじゃない」

 

上記の様なことを折に触れて伝えていく中で、「そうなんです、そうなんです」と強く納得されたり、“あ、そうか‥それでいいんだ‥”となかば、目から鱗が落ちるぐらいの体験になった学生さんもおられました。

 

で、徐々に、“Aが明確じゃなくてもいいか~ボチボチ自分なりに職探しをしていけばいいか~”といった、Aが明確じゃない自分への肯定感がでてきたり、Aが明確でない事から生じる悩みなどがやわらいでくると、例えばある地方自治体の公務員を目指されていた複数の学生さんから、「べつにぶっちゃけ、どうしてこの自治体の公務員に?‥とか聞かれても特にないんですよね~」と笑いながら言ってきたりするようになるわけです。

 

このあたりまでくると、カウンセリングは一段落です。Aが明確ではない自分を“ま~いいか~”と肯定でき、その人なりの就職活動を、その人なりにやっていけるようになるわけですから。

 

別に私にとっては、ごくごく「普通の事」を伝えていっただけなんですが、上記の様なことをカウンセリングで体験していく中で、いかにAが今の学生さんにとって強いプレッシャーになっているのかを感じました。

 

おそらくAが大学で強くなっているのは、就職先の企業が、あるいは社会全体が、Aが明確な方が望ましい‥的な風潮だからなのかもしれません。だとすると、一カウンセラーとしてはいかんともしがたい面もあるわけですが、少なくとも、そういったものが明確じゃない学生さんも一定数以上いる事は間違いないわけで、そういった学生さんに「それは別に普通の事だよ」と伝えていく事も大事なのではないか‥といった事を、臨床心理士としては折に触れて考えてきました。

 

実際に何人かの大学の先生方とそのあたりのお話をした時に、同じような考えをもたれている先生もおられましたね。

 

ふと思ったのですが、これって大学によって温度差があるんでしょうかね。あるいは、外国の大学の雰囲気って、どういう感じなんだろうな~という疑問もわいたりしてきますね。  

コメント: 2 (ディスカッションは終了しました。)
  • #2

    西野入 篤 (土曜日, 15 7月 2017 11:01)

    え~と様:まず、アメリカ在住の方からコメントをいただけた‥という事にちょっとした気分の高揚感をおぼえています(笑い)。“わあ、このHP‥本当に海外の方にも読まれているんだ‥”的な‥ある種の不思議さと嬉しさが入り混じった感覚とでも言いましょうか‥。

    ま~それはともかく‥

    今回私がブログで書いたのは「将来の仕事に関して、目標が明確でない方に生じている、しんどさ」についてなのですが、え~とさんがアメリカの大学で先生をしておられて、感じている問題は「学生さん自身の目標は明確なんだけど、周囲から見た時に、その目標が様々な意味で現実的に難しいかも‥」となった時に、その学生さんにどう接するか‥といったテーマなんだと思います。で、このテーマもすごく難しいデリケートな問題で、私もこのあたりが様々な形でテーマになった学生さんとのカウンセリングもおこなってきました。大学の教員として関わるのと、カウンセラーという立場で関わるのとでも、また関わり方が違ってくるでしょうし‥。

    この問題も、学生さんと関わるスタッフが少なからず直面するテーマですよね。今回私が書いたものの中で、何か参考になるものがあれば幸いです。また、デリケートな問題なのでブログの記事にできるかどうかはわからないのですが、もしできそうだったら、え~とさんからいただいたコメントをもとに、新たなブログを書いてみたいと思います(書けるかどうか‥いつ頃か‥などは明言できないのですが)。

    このたびは、教師という立場で現場に携わっている方からのコメントをいただけて、結果的に私のブログを補う事もできました。ありがとうございました。

  • #1

    えーと (土曜日, 15 7月 2017 07:29)

    そういや自分も大学で教えてるじゃないか、と今回は当事者目線で読ませていただきました。
    アメリカの4年生大学で化学を教えています。生物と化学にくる人は「医者になりたい」人が圧倒的に多いです。アメリカでは、4年生の大学を出てからさらに医学校に行くというシステムです。ほとんどは、高収入だからという理由で、我々は「なんちゃって医者志望」と、初期のうちはあまり本気にしません。が、学部で相当成績優秀でないと、加えて学業以外のところでも光るものがないと、そして厳しい共通試験でいい点をあげないと、医学校などいけません。1年生の化学を落第している時点で、あなた医者は無理だから(というか化学専攻無理だから)もっと自分に向いた専攻を見つけてそっちで将来の方向を模索して、言いたいのですが、例え言う機会があって言っても、聞かない学生が多いです。早いうちに、自分はこの専攻は向いていない、と悟って他の専攻や進路を模索してくれるのが望ましいので、近年はうちの学科も、advisingに力をいれています。でも、学力が追いつかないのに、医学校の夢だけずるずるとひきずって、自分の学力が医学校の基準に及ばないという現実を受け入れられず、クライシスに陥る学生もいます。本人のプライドを傷つけないように、こちらも学生指導は気をつけてしているつもりですが。。。大学のカウンセリングオフィスや、キャリアサービスのオフィスなどへうまく彼らを送れれば、結構「目からうろこ」経験をする人も多いみたいです(できればクライシスに陥る前に)。
    西野入さんの学生さんへの助言、いい言い方だなと思うので、参考にさせていただきますね。