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2年間の開業臨床を振り返って

公開日:2022/06/02

 

 ●このブログは、臨床心理士・公認心理師など専門職向けの内容になります。 

 

目次 

  1. はじめに 
  2. 開業臨床に足を踏み入れるまで
  3. 一人であること
  4. お金を直接いただくことの重み
  5. カウンセリングへのモチベーションの高さ
  6. 開業臨床ならではの難しさ
  7. 開業臨床の魅力
  8. カウンセリング専門機関へのニーズ

  

文責:福田優菜

 

 

1.はじめに 

 

2022年4月で、私が浦和南カウンセリングオフィス(以下、当オフィス)でのカウンセリングを開始して丸2年となります。多くのクライエント(以下、Cl)さんと出会い、私自身も勉強させていただくことが多い日々でした。その中でここ最近は、開業での心理療法(以下、開業臨床)のやりがいや面白さを、実感を伴って感じることが増えてきたように感じます。そこで、4月から3年目を迎えるにあたって、この2年で感じたことなどを一度振り返って体験を整理してみたいと思います。

 

2.開業臨床に足を踏み入れるまで

 

私自身は、大学院卒業後の数年間は精神科の病院とクリニックを掛け持ちしました。その後、もっと他の領域も経験してみたいと思い、医療領域に軸足をおきつつ、ご縁のあった職場を掛け持ちでいくつか勤務し、子供から高齢者まで幅広い年齢の方を対象に心理検査やカウンセリングを経験してきました。

 

そして現在は、医療、産業に加えて当オフィスの開業領域、計3か所に勤務しています。日によって職場を掛け持ちする生活は大変なこともありますが、キャリアの最初の段階で複数の領域を経験することで、心理士の役割や多職種との関わり方など学べることが多くありました。

 

上記のように、私は数年間複数の領域・職場を経験した上で、2020年4月から開業臨床の世界に足を踏み入れたことになります。そういった過去の経験も踏まえた上で、開業臨床のやりがいや難しさついてもお伝えできればと思います。

 

3.一人であること

 

当オフィスは面接室のあるマンションにカウンセラーが一人しか在室していません。出勤して準備をしてケースをこなし、終わったら一人で片づけて帰ります。ちょっとした雑談など何気ない話をする相手がその場にいないのは寂しくもありますが、その分ケースのことだけに集中できる気がしています。

 

特に、一日の終わりにそれぞれのセラピーの余韻を味わうには、この一人の時間がとても貴重だと感じています。その日の緊張が途切れた後の疲労感、自分自身の反省点や面接での手ごたえなどを内省する時間を十分に持てることで、より深くケースを理解することにつながるように思います。

 

そしてこれは、Clさんにとっても同様の体験なのかもしれません。例えば医療機関のカウンセリングでは、医師をはじめとした医療スタッフや受付職員、その後に薬局へ行けば薬剤師など、カウンセリング前後で複数の人と会うことがほとんどだと思います。当オフィスの場合は基本的にはカウンセラーひとりとの関わりだけですので、Clさんにとっても面接の余韻が残りやすくなるのではないでしょうか。

 

4.お金を直接いただくことの重み

 

受付スタッフのいない当オフィスでは、お金のやりとりもカウンセラーが行うことになります。決して安くはない料金を面接後に直接手渡しでいただくという生々しさは、開業臨床ならではかもしれません。今、Clさんからいただいた料金分のことを提供できているだろうかと自問自答することが増えたような気がします。

 

Clさんにとっても、カウンセリングで得られるものがないと継続につながりません。カウンセリングは時に苦しい作業になることもありますが、それでも意味あるなにかを持ち帰ってもらえるようにと自分自身の臨床を振り返る日々です。

 

職場や領域によっては、無料やもう少し料金の安いカウンセリングもあります。それはそれで、敷居が高く思われがちなカウンセリングにアクセスしやすくなるという肯定的な面もあると思います。ただ開業機関ではお金を直接やりとりする分、双方にとってカウンセリングの重みをより実感しやすいのかもしれません。

 

とはいえ当然のことながら、料金の有無や金額の大小にかかわらず、Clさんのためにできることをできる範囲でやるということは変わらないのですが。

 

5.カウンセリングへのモチベーションの高さ

 

当オフィスに来られるClさんは総じて、カウンセリングへのモチベーションが高い印象を受けます。例えばカウンセリング初期や終結時に、カウンセリングを申し込むまでの迷いや不安について話題にされることがあります。ご自身で検索してホームページを読み、申し込むまでにしばらく逡巡して、ようやく申し込んだとおっしゃる方も多いです。申し込む決断をすること、その一歩を踏み出して来室されることに頭が下がる思いです。

 

そういった「逡巡からの決断」といったプロセスもモチベーションの高さに関係するのかもしれません。そしてそのようなモチベーションからなのか、カウンセラーの介入に対しての反応が即座に生じ、次の回で変化が語られるなど、セラピーの手ごたえを実感しやすい気がします。逆に言えば、Clさんのニーズに合ったものを提供できなければ継続しません。そのため、カウンセラー側の臨床力を絶えずブラッシュアップしていかなければと思わされる毎日です。

 

6.開業臨床ならではの難しさ

 

一方で開業臨床ならではの難しさについても感じることがあります。多くの場合、カウンセリングを実践する開業機関に在籍するのは臨床心理士や公認心理師のカウンセラーのみだと思います。しかし他の領域では、Clさんの主治医や精神保健福祉士や看護師、保健師といった専門家がおり、必要があれば彼らと情報共有をしつつセラピーをしていくことになります。

 

そしてこれは時にカウンセラーやCl、あるいはセラピー全体を様々な側面から支えていくことになります。そのような、多職種との連携から支えられる機能の乏しさは、開業臨床特有の難しさのように感じます。

 

7.開業臨床の魅力

 

私なりに開業臨床を経験して考えたことや感じたことを書いてみました。そして改めて、私にとっての開業臨床の一番の魅力を考えると、それは「一人の空間に身を置いてセラピーの前も後も様々なことをじっくり考え内省できること」だと感じます。元々一人で熟考するのが好きなので、そこに大きな魅力を感じるのかもしれません。そして、このように一人で考える時間が多いことで、生身の自分でクライエントさんと対峙しているような感覚になります。自分自身のあり方が問われるともいえるかもしれません。このように、良い意味での緊張感がある中でケースに臨める気がしています。

 

また当然のことながら、職場内で複数の人が集まればその中での人間関係が生じてきます。これまで職場の仲間に支えてもらう経験もたくさんありますが、それと同じくらい、人間関係でストレスを感じてしまうこともありました。そういう点からみても、職場内での人間関係の疲弊がなく自分のペースで取り組める開業臨床は、私の性質に合っているのかもしれません。

 

8.カウンセリング専門機関へのニーズ

 

当オフィスに来室されるClさんは、大きな症状はないように見えても長年にわたる生きづらさを抱えておられる方や、生い立ちの過酷さのわりに大きく崩れることなく、なんとかこれまでやってこられた方が多いように思います。

 

そういった方の悩みは、身近な人に話してすぐに解決に至る類のものではないことがほとんどです。むしろ、周囲に理解されず更なる傷つきを抱えてしまったという話もよく耳にします。

 

また、精神科での投薬治療だけでは改善せず自らカウンセリングの専門機関へと足を運ぶ方もおられます。長年にわたる生きづらさを精神科の短い診療時間内で扱うのは難しいことも多いので、そういった方々がカウンセリング専門機関の門をたたくことになるのだろうと思います。

 

とはいえ、開業機関で一日にお会いできる人数には限りがあるため、カウンセリングの申し込みをいただいてもウェイティングという形になってしまうことなどもあります。そういった状況をみてもやはりカウンセリング専門機関へのニーズはあると感じますので、必要としている人がスムーズにカウンセリングを受けられる状況になっていけばと思います。