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大学生とのカウンセリングで考えてきた事(1)

今回は、私が受けもっていた学生さんの中の、一定数以上の方が、抱えておられた共通の悩み・しんどさの一つについて、書いてみたいと思います。

 

それは、いわゆる「内向的な方」の生きづらさのようなものです。ここでの「内向的」の定義は、一般的なもので、ひとまず「一人でいる事が好き・大勢で賑やかに過ごすのが苦手」といったものです。

 

で、そういった内向的な方が、いわゆる「外向的な方(ここでは、ざっくりいってその反対、と定義づけます)」を見ると、“自分は友達が多くないし‥あんなに賑やかになれないし‥”といった事から、自分への評価・自己肯定感が下がったり、劣等感を感じたり‥といった事を、しばしば口にされました。

 

加えて、昨今どこでも求められている「コミュニケーション能力」なるものが絡んできて、「自分にはコミュニケーション能力がないから‥」等と更に自己評価が下がっていくわけです。この種の悩みを抱えておられる方が多かったように思います。

 

これには、大学が、あるいは企業が、あるいは社会全体が、「コミュニケーション能力が今の時代は必要だ‥」的な事を喧伝している「時代の風潮」と無関係ではないでしょう。

 

さて、「コミュニケーション能力」とは何でしょうか?今回はそのあたりの細かい事には触れません。ただ、一点だけ私の考えを記すと、それは「社交性の高さ」とイコールではない、という事です。社交性の高さというのは、上記の「外向的な方」がもともと性質的に持ち合わせているものです。「大勢で賑やかに過ごすのが好きな方」は当然「社交性」も高いかと思います。

 

それで、私が内向的な方のそういった悩みをお聞きしながら、お伝えしてきたのは、主に

 

*内向的な性質のポジティブな側面をお伝えしつつ、「内向的」な性質を無理やり「外向的」に変える必要はない。そもそもそれは不可能に近い。

*社会にでていく前に、社会にでてからやっていくための基本的な「社会性」を身につけていく事は大事だが、「社交性」と「社会性」はイコールではない。コミュニケーション能力の定義は色々あるだろうが、少なくとも「社交性の高さ」とはイコールではない等でした。

 

具体的には、たとえば普段皆で賑やかにワイワイやっている「外向的で社交性の高い方」が、いざ職場の大切な会議などで自分の意見を適切に言えるか‥というと、そうではない事がしばしばある。一方、普段は皆でワイワイやる等が苦手な「内向的で社交性は低い方」が、上記の様な場で自分の意見をしっかり言う事がしばしばある。

 

前者の方は「社交性は高いが社会性はそうでもない」後者の方は「社交性は低いが社会性はある」‥つまり、「社交性」と「社会性」はイコールでないし、ましてコミュニケーション能力=社交性でもない。「あなたが、少しずつ伸ばしていけるといいのは「社会性」であって「社交性」ではないと思う‥」といった感じです。

 

学生さんが、仕事で必要とされる社会性を少しずつ育てていくというのは、具体的には、ゼミや卒論発表などで自分の意見を言えるようになっていく、就職面接等「いざ」という場面で、自分の考えや意見を言えるようになっていく‥といったあたりでしょうか。ここを援助していく必要はあるかと思いますが、そもそも「内向的な方を外向的な方に変える」‥というのは、少なくとも私にはできませんし、またする必要もないと思います。

 

これを折に触れて伝えていく過程で、一定数以上の方が、カウンセリング開始当初に抱いていた、外向的な方への劣等感などが、ある程度やわらいでいったり、再び「自分は自分でいいんだ‥」といった自己肯定感を取り戻していった印象があります。

 

企業の要請・時代の風潮等もあって、大学も「コミュニケーション能力」をつけるように‥という事を、様々な形で学生さんに伝えていっているし、それはそれで致し方ない面もあるかと思います。

 

が、最低限、上記の様な事とセットで伝えていって欲しい~な~じゃないと、内向的な学生さんが、悩まなくてもいいところで、劣等感を抱かなくてもいいところで抱くよな~といった事を、学生さんとのカウンセリングを通じて折に触れて考えてきました。一回目を終わります。

コメント: 4 (ディスカッションは終了しました。)
  • #4

    西野入 篤 (土曜日, 13 5月 2017 17:35)

    クリクリ様:コメントありがとうございました。不思議なもので、私が先に書いたような関与をしていって、クリクリ様の言葉をお借りすると、「自信」「自分は自分で良いんだと納得」できていけると、今度は逆説的ですが、「その人なり」の「社交性」「社会性」が育ってくる、あるいは育てていけるんですよね。当初は「大学の事務職員に話すのも相当に緊張して‥」と言っていた学生さんが数年後に「近くのカフェの常連になっていて、その人達と話すのが楽しいんです~」と笑いながら言っていた時は「マジですか」とか言いつつビックリした記憶があります。もう私なんかより、すっかり「社交性」が高い‥と思いつつ(笑い)。そんなエピソードを思い出しました。ありがとうございました。

  • #3

    クリクリ (土曜日, 13 5月 2017 15:36)

    いいお話でした。
     人は、多い少ないの程度はあるものの、必ず不安や悩みごとを抱えて毎日を生きていますよね。
     悩み多き毎日を過ごし、誰に相談したらよいかもわからぬ時に、カウンセラーに出会い、カウンセリングを通して「自分は自分で良いんだ」と納得できたら、そして自分に自信が持てるようになったら、これほどありがたいことはないと思いました。
     きっとこの経験を通して、また一回り大きな人間に成長していくのかもしれませんね。
     気軽に話の出来るカウンセラーが身近にいてくれればいいなあー、と強く思いました。

  • #2

    西野入 篤 (金曜日, 12 5月 2017 14:57)

    ちは様:コメントありがとうございました。仰る通りだと思います。どちらもある方が、生きていきやすくはなりますよね。私も「社交性」を否定するつもりは、もちろんないですし。一応自分も両方「それなりに」は、あるつもり‥ですしね。結果的に内容を補足できました。ありがとうございました。

  • #1

    ちは (金曜日, 12 5月 2017 12:46)

    「社交性」と「社会性」ですか…。

    どちらもある程度あると毎日を送りやすくしてくれる気がします。あとは、自分がどれくらいの社会性と社交性を自分に求めるか、それでも人それぞれ悩むかどうかが変わってくるのかなぁとも読んでいて思ったりしました。