公開日:2019/08/07
更新日:2020/12/02
目次
1.ネット検索がもたらす心の健康へのマイナス面
何かわからない事があったときや、気になることがあったとき、今はインターネット(以下,ネットと略)ですぐに色々調べられる便利な時代になりました。私を含めて多くの方がその恩恵を受けていると思います。
一方、ネットの普及で、心の健康面に関しては、マイナスの現象も生じています。今回はその現象の中で、私が主要なものだと考えるものを書いてみようと思います。主要というのは言いかえれば、私が15年以上のカウンセリングの経験の中で、頻繁に出会う事象ということです。
2.うつ病なのでは?という不安からネット検索がはじまる
私が主要な事象と考えるのは、「自分は~病・障害なのではないか」といった「不安」が一定の強さでわいてきた時に生じてきます。「~」の中身は例えば「自分はうつ病なのではないか」といった内容ですね。以下、わかりやすくするために今回は、「自分はうつ病なのではないか」といった例で話をすすめます。
こういった類のそこそこ強い不安がでてくると、多くの人はその不安に関して、「①:自分はそうじゃない」と不安を払拭し安心したくなるか、あるいは、「うつ病なのかも…」といった不安から「②:その真偽を調べたくなる・確かめたくなる(本稿ではひとまずこれを『確認欲求』と形容します。)」といった心の動きが生じます。
大事なのは①,②ともに「不安」という感情につき動かされている点です。
そして、そしてそこからネット検索をし始めます。「自分はそうじゃない」と安心したいにせよ、「確認欲求」にせよ、それぞれの目的に合致すると思われる情報をネットで得ようとしていくわけです。「証拠集め」に近い面もあるでしょう。
3.不安とネット検索の負のスパイラル
しかし‥です。ネットで例えば「うつ病かも‥」と思って検索していくと、うつ病の記事はごまんとあります。さらにそれらの記事は玉石混交で、一定の教育訓練を受けてきた専門家からみると、相当いい加減なものもあります。
そういった玉石混交の情報のるつぼに、「私はうつ病かも‥」といった強い不安を抱えた方がふれていくと、たいていネット検索を始める前の不安よりも、不安の程度が強くなります。
そして、その「大きくなった不安」をさらに払しょくしようとしてネット検索を続けていくと、さらにその不安が大きくなっていきます。で、その「さらに大きくなった不安」を払しょくしようとすると‥‥。
もう、おわかりですね。完全な負のスパイラル、「不安が拡大していくスパイラル」にはいっていきます。この状態でネットサーフィンをしていたら、あっという間に数時間がたち、気づいたら心身が消耗し、「ネット検索を始める前の不安」よりも「より大きな不安」におおわれてしまうことになります。
特に精神的健康によくないのは、夜中にやり始めて結局朝方までやってしまい、結果として、不安が拡大し、睡眠不足になる。そして、そのスパイラルが積み重なっていくパターンですね。
ちなみに、ネット上に無料で公開されている、うつ病かどうかを調べる「的な」テストをやり、「自分はうつ病かもしれない」といった不安を訴えるクライエントさんとこれまでわりとお会いしてきましたが、私からみると、“うつ病の可能性は低いかな~”と思う方達が多かったですね。もちろん、私は医師ではないので「診断」はできないわけですが。
また、このテスト的なものは、だいたいが「あてはまる」「どちらともいえない」「あてはまらない」といった選択肢を答えていく形が多いのですが、これに答えている「あなた」は、その時「不安につき動かされている状態」で、冷静に思考ができている状態ではないんですよね。
つまり、この手のテスト「的なもの」は、専門家からみればそもそも内容がいいかげんなものが多く、また、回答している本人も「不安につき動かされている」中で、あるいは「不安が高まっていくスパイラル」のなかで答えたものなので、その回答にどれぐらいの信ぴょう性があるかは大いに疑問があるわけです。
4.カウンセリングでどのように関わるか
では、上記のような「私はうつ病かも」といった不安を抱えた方に、浦和南カウンセリングオフィス(以下、当オフィス)ではどのように関わっていくでしょうか。結論を先に言えば、それはもう、人それぞれです。
とはいえそれだけですと、当オフィスのカウンセリングの説明になりませんので、ここでは、そういった方にもちいる二つの関与方法を述べてみたいと思います。
4-1.行動に焦点をあてる
一つの方法は、「私はうつ病かも」といった不安から生じる「ネット検索」という「行動」をいかに減らすか、しないようにするか、を話し合いながら一緒に考えていく方法です。
例えば、カウンセラーから、Aという方法を提案しそれを実際にやってみてどうだったのか、を話し合いながら、その方が「ネット検索」という「行動」をどうすれば少しでも減らせるかなどを話し合っていく方法です。
4-2.なぜそれが不安なのかを考えていく
もう一つのアプローチは、なぜそもそもそういった不安が強く生じるのか、その背景にはどんな感情や気持ちが存在するのか、といった心の内側、言い方を変えれば「そもそも論」を一緒に考えていくアプローチです。このアプローチは、時にその方が生きてきた歴史を聞いていくことにもなります。
というのも、今までその方が生きてきたなかで積み重ねてきたしんどさ、つらさ、怒り…といったものが、上記のような不安の発生に寄与している可能性があるからです。
実際にカウンセリングをおこない、その方の生きてきた歴史をふり返っていく中で、“あ~こういう感じで生きてきて…こういうしんどさを積みかさねてくれば…それは、「私はうつ病かも…」といった不安がでてくるよね~”といったことを、実際にクライエントさんと共有していく過程が生じてくることがあります。
実際のカウンセリングでは、上記の二つのアプローチを同時並行的に用いていくことが、当オフィスのカウンセリングでは多いです。
5.不用意なネット検索はよくない
長くなりました。ネット検索は便利で今や多くの方の生活になくてはならないものになっています。一方、これまで述べてきたように、なんらかの強い不安を不用意にネット検索で調べどうにかしようとすると、だいたい、しんどいことになります。ブログのタイトルどおり、本当にろくなことになりません。
その事に多くの方が少しでも気づいて自覚的になるだけでも、心の健康に利する面があると思います。今回の記事が、皆さまの心の健康に少しでも役立てば幸いです。
【執筆者】
- 西野入 篤
- 資格:臨床心理士、公認心理師
- 所属学会:日本心理臨床学会、日本心理療法統合学会
- 経歴:大学院修了後、精神科医療機関,大学の学生相談室などをへて、現在は浦和南カウンセリングオフィス代表。カウンセリング経験,臨床経験は約20年。詳しくは「カウンセラー・顧問」
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